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福島地方裁判所 昭和27年(ワ)71号 判決 1959年6月19日

原告 国

被告 出田芳夫こと坂井芳夫 外三名

主文

被告坂井芳夫は原告に対し金五六、五〇〇、六五七円およびこれに対する昭和二七年四月一〇日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用中原告と被告坂井芳夫との間に生じた部分はこれを五分し、その一を原告、その余を同被告の負担とし、原告と爾余の被告らとの間に生じた部分は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告らは原告に対し連帯して金六九、二八八、四七五円二〇銭およびこれに対する昭和二七年一月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

一、被告出田芳夫こと坂井芳夫は昭和二二年六月二八日各種油類の精製および販売を主たる目的とし本店を福島市置賜町二二番地に置く訴外昭和化学工業株式会社(昭和二八年一月一六日破産)の代表取締役に、同佐川文蔵同坂井定次郎は同日訴外会社の各取締役(但し被告佐川は専務取締役)に、被告坂井ノブは同日訴外会社の監査役に各就任し、以後それぞれの職務に従事していたものである。

二、右会社は油糧および砂糖等の配給統制に関する業務を担当していた油糧砂糖配給公団東北支部(以下単に公団と称する)から別紙第一目録記載の油類およびその原料等の寄託を受けて保管中、昭和二五年一〇月頃から昭和二六年七月頃にかけて、ほしいままにこれを他に売却処分して公団に対し右油糧等の時価合計金六九、五四四、八一〇円相当の損害をこうむらせた。しこうして被告坂井芳夫、同佐川文蔵らは代表取締役あるいは専務取締役として右処分行為の責任者であり、他の被告等は前示役員としていずれも訴外会社の右処分行為に関与したか、そうでないとしても、取締役又は監査役として法令に定められた注意義務を怠り、他の役員の不法処分を拱手傍観した結果であるから、被告らは昭和二五年法律第一六七号による改正前の商法第二六六条第二項第二八〇条により公団に対し連帯して前記損害額金六九、五四四、八一〇円を賠償する義務がある。

三、かりにそうでないとしても、被告らは訴外会社の前記役員として在任中、その任務を怠り、訴外会社が公団より委託された保管油糧等をほしいままに処分するのを傍観したか、少くとも不注意のためこれを看過し、訴外会社に対して前記のような損害をこうむらせたのであるから、同法第二六六条第一項第二八〇条に基き同会社に対し、その損害を賠償する義務があるものというべきところ、訴外会社の債権者たる公団は訴外会社に代位して被告らに対し前記損害の賠償を請求する権利を有する。

四、ところが公団は、昭和二六年四月一日油糧砂糖配給公団解散令(昭和二六年三月三〇日政令第六〇号、同年八月二日政令第二〇八号)によつて解散し、昭和二七年六月二七日その清算を結了し、同月三〇日同結了登記を経由したが、それに先立つ同年四月一日同令第一二条の二の規定により、公団の前記二、または三、の事由を原因として発生した被告らを連帯債務者とする金額六九、二八八、四七五円の債権は、大蔵大臣の承認を受けて国庫に帰属したものである。従つて、原告は被告らに対し前記二、あるいは三、の損害賠償請求権を有する。

五、そこで原告は被告らに対し、右損害金六九、五四四、六一〇円のうち、金六九、二八八、四七五円二〇銭およびこれに対する昭和二七年一月一日以降支払ずみに至るまで年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。

と述べた。

被告坂井芳夫、同坂井定次郎、同坂井ノブ三名の訴訟代理人および被告佐川文蔵の訴訟代理人らは、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

原告主張事実中一、は認める。二、のうち公団の業務に関する事実は認めるが、訴外会社が公団から油糧等の寄託を受けたことは知らない。その余の事実は否認する。三、は否認する。四、のうち公団が昭和二六年四月一日解散し、昭和二七年六月二七日その清算を結了し、同月三〇日同結了登記を経由したことは認める。

と述べ、被告佐川文蔵の訴訟代理人らは更に、

一、原告の主張する三、は原告において、公団が訴外会社に対して有する損害賠償債権に基き、訴外会社の被告佐川に対する損害賠償債権を代位行使できることを前提としているが、かりに訴外会社が被告佐川に対し原告主張のような損害賠償債権を有するとしても、訴外会社は昭和二八年一月一六日破産の宣告を受けておるので、これが債権の行使は破産管財人に専属するものであるから、原告の代位は許されない。

二、かりに公団が被告佐川に対し原告主張のような債権を持つていたとしても、原告が右債権を承継したことはない。すなわち、原告は原告主張の債権が油糧砂糖配給公団解散令第一二条第二項に基き、公団の清算結了前である昭和二七年四月一日大蔵大臣の承認を得て国庫に帰属したと主張するが、清算の結了前においては、清算結了によつて組成されるべき残余財産のあるべき筈がないこと、原告が大蔵大臣の承認を受けたと主張する債権はその種類、発生年月日、期限、利息等の点について具体的に特定されていないこと、右債権は、公団の被告らに対する商法上の損害賠償債権もしくは公団によつて代位行使されるべき前記訴外会社の被告らに対する損害賠償債権であつて、かかる債権が発生したと認めるには複雑な事実関係、法律関係が検討されなければならないこと等に照らし、大蔵大臣が右債権の国庫帰属を承認する筈がないし、かりに承認したとしても以上のような理由でそれは無効である。

と述べた。

証拠として原告訴訟代理人は、甲第一、二号証を提出し、被告佐川の訴訟代理人らは、乙第一号証を提出し、甲第一号証の成立は認めるが、第二号証の成立は知らない、と述べ、被告坂井芳夫同坂井定次郎同坂井ノブら三名訴訟代理人は、甲号各証の成立を認める、と述べた。

なお原告訴訟代理人は昭和三四年二月一三日の口頭弁論期日において、前記請求原因に追加して、被告佐川は被告坂井及び訴外猪野俊美と共謀し、昭和化学工業株式会社が公団に売渡すべき現品を所有しないにかかわらず、これあるが如く装い、公団より大豆原油五二噸八五瓩三〇〇瓦、脱脂大豆九、一五九俵、大豆特製油三五噸一三六瓩四〇〇瓦の代金として合計金二三、二一六、七三一円一六銭を騙取したが、右は旧商法第二六六条第二項の法令違反であることには横領の場合と差異はないのであるから、被告佐川は原告に対し前示請求の範囲内で損害賠償の責任があるものというべきである、よつてこれを予備的に主張すると述べ、被告佐川の訴訟代理人はこれに対し、「右請求原因の拡張は請求の基礎に変更があるから許されないものである」と述べた。

理由

一、訴外昭和化学工業株式会社が各種油類の精製ならびに販売を業とするものであつたところ、昭和二八年一月一六日破産したこと、訴外油糧砂糖配給公団は、油糧および砂糖等に関する配給統制の業務を担当していたが昭和二六年四月一日解散し、昭和二七年六月二七日これが清算を結了し、同月三〇日同結了登記を経由したことおよび被告らがそれぞれ右訴外会社の代表取締役、取締役、監査役等の各地位にあつたことは当事者間に争がない。

二、まず右公団が被告らに対し昭和二五年法律第一六七号による改正前の商法第二六六条第二項、第二八〇条に基く損害賠償債権を有するかどうかについて考える。

(1)  はじめに被告らが原告が請求原因二、において主張するような法令または定款に違反する行為をして、公団に損害をこうむらせたかどうかについて検討するに、被告佐川文蔵を除く被告らにおいてその成立を争わない甲第二号証に弁論の全趣旨を綜合すると、

(イ)  訴外会社は昭和二三年資本金一八〇、〇〇〇円で設立されたものなるところ、工場の建築、機械その他の諸設備工場の増設拡張等は殆んど銀行等からの借入金等で支弁していた関係上、その後における収支相償わず、営業ならびに設備の拡張資金に窮するに至つたため、前記公団から寄託を受けて保管中の別紙第二目録記載の油糧等をほしいままに昭和二五年一〇月頃から昭和二六年七月頃にかけて処分し、その結果同公団は油糧等の当時の価格合計金五六、五〇〇、六五七円相当の損害をこうむつたこと。

(ロ)  被告坂井芳夫は、訴外会社の代表取締役として右保管油糧等の処分について、直接関係しておることは勿論、昭和二六年七月一〇日右事実を卒直に認め、この旨を記載した顛末書と題する訴外会社代表取締役名義の書面(甲第二号証)を、当時の公団の清算人吉田敬助あてに差入れていること。

を各認めることができる。しかし、被告坂井芳夫を除く他の被告らが訴外会社の右保管油糧を処分するについて、被告坂井芳夫と共謀したとか、処分を協議したとか、処分に関係していたと認めさせる証拠はない。而して前記旧商法第二六六条第二項にいわゆる「法令」とは、商法中の具体的な特別規定のみならず、刑法の規定をも包含するものと解すべきであるから、被告坂井芳夫の右認定行為は同条同項の法令に違反する行為に該りその結果第三者たる公団に金五六、五〇〇、六五七円相当の損害をこうむらせたものというべきである。従つて公団は同被告に対し右同額の損害賠償債権を有していたものということはできるが、その余の被告らは同法同条(同法第二八〇条において準用する場合を含む)によつて損害賠償の責に任ずべきいわれはない。

(2)  つぎに、原告主張の三、の事実について案ずるに、被告らが訴外会社の取締役ないし監査役として任務を怠つた結果会社に損害を加えた事実はこれを認むべき証拠なく、却つて被告らは僅か金一八万円の資本金から発足した訴外会社をして公団から数千万円の油糧等につき保管の委託をなさしめる程度の大会社に成長せしめたこと及び訴外会社の苦境打開に奔走していたことが弁論の全趣旨から窺われる本件では、原告の右主張は採用し難い。しかのみならず、訴外会社は昭和二八年一月一六日破産宣告を受けたことは前記のように当事者間に争がないのであるから、かりに公団が訴外会社に対し、訴外会社が被告らに対し、それぞれ原告主張のような損害賠償債権を有するとしても、同公団の右債権は同会社が破産宣告前に生じた原因に基き将来行うことあるべき請求権であつて、破産財団に属するものというべきであるから、この権利の行使は破産管財人に専属し、他方訴外会社の右債権は破産債権であるから、破産手続によらなければこれを行使することができないわけである。そうだとすれば、かりに原告が公団から公団の訴外会社に対する債権を承継したとしても、この債権に基き同会社の被告らに対する債権を代位行使することは許されないものというべきであり、かかる債権者の代位を前提とする原告の右主張は、到底採用することができないものといわなければならない。

三、進んで前記二、(1) に認定した公団の被告坂井芳夫に対する損害賠償債権が原告に承継されたかどうかについて考えるに、右債権が公団解散令第一二条第二項により大蔵大臣の承認を受けて原告に帰属したとの原告主張事実を認めさせる証拠はない。しかし、その方式および趣旨により真正に成立したものと認めることができる乙第一号証によれば、公団は昭和二七年六月二七日清算を結了し、同月三〇日清算の結了登記がなされていることを認めることができるから、同令同条第一項により右清算結了の登記の日に、それまで公団に帰属していた前記債権は当然残余財産として原告に帰属したものといわなければならず、従つて、他に特段の主張、立証のない本件では被告坂井芳夫は原告に対し、金五六、五〇〇、六五七円の損害を賠償する義務があるものというべきである。

四、そこで右損害賠償債務の履行期について審究するに、前記旧商法第二六六条第二項の規定に基く損害賠償義務は、商法の定めた特別責任であつて不法行為による損害賠償義務ではないものと解すべきであるから、この履行期は法定または定款に違反する行為の成立の時ではなく、履行の請求があつた時であると解すべく、従つて右債務の履行期は本件訴状が被告坂井芳夫に送達されたことの記録上明らかな昭和二七年四月九日であるといわねばならない。

五、よつて更に原告の請求原因に対する追加的主張の当否についで案ずるに、原告の従来主張した請求原因と新たになされたそれとは、全く別異の不法行為に基く別個の損害につき、これが賠償請求権を有することを前提とするものであることは、原告の主張自体に徴し明かであるから、右は請求の基礎に変更があるものというべく、従つて原告の右請求原因の追和は許されないものといわねばならない。

六、以上の次第であるから、原告の本訴請求中、被告坂井芳夫に対し、金五六、五〇〇、六五七円およびこれに対する本件訴状が同被告に対し送達された日の翌日である昭和二七年四月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるから正当として認容すべきであるが、その余は失当として棄却すべきものである。

よつて民事訴訟法第九二条第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 檀崎喜作 大和勇美 逢坂修造)

第一目録

名称       数量        単価         価格

屯   瓩        六〇瓩入

県産大豆  九二、六七六、三八四   二、〇〇〇円  三、〇一五、六二〇円

ドラム一八一、五瓩入

大豆原油 二四三、二六二、八七〇五 二八、〇〇〇円 三七、五三八、九五五円

大豆油    二、五四九、六〇〇     〃       三九三、三二六円

ドラム一八一、五瓩入

大豆特製油 二二、八七六、〇〇〇  三二、〇〇〇円  四、〇三三、二三四円

菜種油   四〇、二一七、〇〇五  三四、〇〇〇円  七、五三三、七七六円

屯当り

脱脂大豆 四九七、四四一、二〇〇  三二、五〇〇円 一六、一六六、八三九円

六〇瓩入

菜種     一、二七二、〇〇〇   二、〇〇〇円     四二、四〇〇円

空ドラム罐        八一一罐    八六〇円    六九七、四六〇円

空五ガロン罐       八八〇     一四〇円    一二三、二〇〇円

合計金額                      六九、五四四、八一〇円

第二目録

名称 数量 単価 金額

八四屯三三二    一ドラム            円

大豆原油     八三九、五 二八、〇〇〇円 二八、四三七、〇二二・〇〇

三八屯九六三    一ドラム

菜種油        四二五 三四、〇〇〇円  七、二九八、七八〇・〇〇

一ドラム

大豆特製油 二二屯八七六   三二、〇〇〇円  四、〇三三、二三四・〇〇

六〇キロ

大豆    六三屯四二八    二、〇〇四円五 二、一一九、〇二二・〇〇

六〇キロ

菜種     一屯二七二    二、〇〇〇円     四二、四〇〇・〇〇

一屯

脱脂大豆 四二八屯四四一、二 三二、五〇〇円 一三、九二四、三三九・〇〇

一本

空ドラム    七五一本      八六〇円    六四五、八六〇・〇〇

合計金額                   五六、五〇〇、六五七・〇〇

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